障害者差別解消法が改正され、2024年4月1日、民間事業者による障害者への合理的配慮の提供が義務化されました。
カフェやレストラン、その他の飲食店においても、視覚障害者を含むすべてのお客様が快適に利用できる環境づくりが求められています。
視覚障害になじみのない人も、これまで視覚障害者に接して改善を繰り返してこられた飲食店の方々にも、私たち視覚障害がある当事者の視点で、合理的配慮について無理なくできる事項を中心に読んでもらいたい記事として作成しました。
なお、当事者の皆さんにもぜひ読んでもらいたいないようになっています。
【目的】
この記事では、視覚障害者への合理的配慮について、当事者視点から分かりやすく解説します。
具体的な例や、配慮を行う際のポイントなどを紹介することで、飲食店における合理的配慮の実践を支援します。
今は関係がないと思われる方であっても、いざというときには必ず役に立つ内容になっていますので、いつでも見直せるように、ブックマークなどしていただけたら嬉しいです。
また、一般社団法人With Blindは民間事業者の合理的配慮の対策を支援します。
検討段階で困ったことがありましたら、いつでもお問合せください。
【こんな方にオススメ】
- 具体的な合理的配慮の例を検討している飲食店
- 近くに障害者施設等があり来店が見込まれる飲食店
- 観光地などで誰もが利用しやすいお店を目指す飲食店
- 過去に視覚障害者のお客様が来店されたことをきっかけに、合理的配慮について検討している飲食店
- 合理的配慮について具体的に知りたい視覚障害当事者やその周囲の家族など
視覚障害者が飲食店で困ること
視覚障害者は、周囲の状況を視覚で把握することが難しいため、さまざまな困難を経験します。
特に、飲食店においても次のような事項で困ることが多いです。
- メニューにはどんなことが書かれているのかわからない
- 店内設備はどのようになっているのかわからない
- トイレはどこにあるのかわからない
- 料理はどのように盛り付けられて、どこに何があるのかわからない
このバリアの大きさや程度は、視覚障害者の中でも十人十色です。
そして、次のような誤った理解で配慮が断られることも多くあるのが実情です。
これらの誤った理解は、不当な差別的取り扱いとして違法となり、罰則に該当する場合もあるようです。
思い込みや偏見を捨て、飲食店と視覚障害者の双方が建設的な対話の中から解決策を探っていくことが求められています。
- 前例がないのでサポートできない
- 忙しいので特別扱いはできない
- よくわからないので断っている
- 障害がある人の来店は一律に断っている
- 盲導犬や介助犬の来店は断っている
配慮が行き届いた店や場所は私たちの「Vi-log」アプリで探してみましょう!
「白い杖を持って入店すると店員さんが声をかけてくれ、席まで誘導してくれることが多いです。注文も席で受けてくれます。商品も運んでくれるので、こぼす心配もありません。ゆっくりと大好きなコーヒータイムがすごせるのがとてもいいです。奥の一人で座れるソファー席がお気に入りです。」
— Vi-logでもっと評価を見る
飲食店の心のバリアフリー研修動画でイメージを具体化させる
ところで、観光庁では、心のバリアフリー認定制度というものを実施しています。
その中で、飲食店における合理的配慮の具体的な事例について動画を公開しています。
この動画では、障害者はもちろんのこと、どのようなことで視覚障害者が困っているのか、どのような支援や配慮をすれば適切なのかが簡単にイメージできるようになっています。
なお、With Blindでもほかにも合理的配慮について記事を書いていますので、よければご覧ください。
前提知識1:視覚障害の種類と影響
視覚障害=見えないと誤解をされている方に出会います。
視覚障害には、視野が狭い人や、後天的に視力を失った人、まぶしいのが苦手な人など、さまざまな種類があります。
また、視力障害の程度も、まったく見えない全盲から、日常生活に支障のない程度の弱視まで様々です。
従って、視覚障害の程度によって、必要となる配慮のレベルも様々です。
視覚障害も多様であることはぜひ覚えておいてほしいポイントです。
前提知識2:視覚障害者を取り巻く環境
近年、情報通信技術の発展により、視覚障害者を取り巻く環境は大きく改善されています。
拡大ソフト、音声読み上げソフト、点字ディスプレイなどの assistive technology の普及により、視覚障害者も多くの情報にアクセスできるようになりました。
特に、飲食店のウェブサイトがアクセシビリティに配慮されたものであれば、店の情報だけでなく、メニューも解読することができるのが大きなポイントです。
見えない・見えにくい人は、ウェブサイトの文字を拡大したり、コントラストを変えたり、音声読み上げソフトを使ったりすることで、情報を入手しています。
しかし、飲食店のような公共の場では、視覚障害者が依然として多くの困難に直面しているのも事実です。
初めて訪れるお店では、バリア(障壁)が多くて利用しづらいと感じる場合が多いようです。
前提知識3:障害者差別解消法改正のポイント
そこでポイントとなるのが、障害者に対する合理的配慮です。
従来、民間事業者における障害者への合理的配慮は努力義務でしたが、2024年4月の改正により義務化されました。
障害者差別解消法は、国連の「障害者の権利に関する条約」の整備の一環でもあり、日本だけでなく国際的なレベルでも重要とされています。
障害者差別解消法の改正ポイント | 2014年3月まで | 2014年4月以降 | ||
行政 | 民間 | 行政 | 民間 | |
①不当な差別的取扱い | 禁止 | 禁止 | 禁止 | 禁止 |
②合理的配慮の提供 | 義務 | 努力義務 | 義務 | 義務 |
前提知識4:合理的配慮の対象となる障害者とは
障害者差別解消法で重要なのが障害者への合理的配慮です。
障害者とは、目に見える障害や、障害者手帳の所持の有無で決まるものではありません。
日常生活で不自由を継続して感じている人全般が対象です。
前提知識5:合理的配慮とは
障害者が社会のあらゆる場面で平等に参加できるよう、必要に応じて行う特別な措置のことを指します。
特別扱いではなく、誰もが平等にできるようにするための措置ですので、この点はとても重要です。
飲食店での7つの合理的配慮の例
視覚障害者への合理的配慮として次のようなものが考えられますが、これは一例です。
- スタッフによる入り口での声掛けと誘導
- メニュー内容を大きなカテゴリーから順に説明
- トイレの位置を説明
- ビュッフェ形式のレストランでは料理を配膳
- 配膳した料理お客さんから見た位置で説明
- 無人レジやタブレットを使えない視覚障害者への代替策を提供
- メニューや店内案内を拡大文字・音声・点字で提供
- ウェブサイトをアクセシブルなものに
こんなにあるの?対応できないんじゃない?
まあまあ最後まで読んでみて。これ全部を対応してほしいっていう意図ではなく、状況に応じて対応してほしいということだからさ~!
事例1:入口で視覚障害者が来店する際、スタッフが声をかける
単独で視覚障害者が出かける際、どこの店に入店したのか、特に初めての場所であると不安に感じることがあります。
慣れている場所であっても、スタッフの人に声をかけていただくことは大きな安心感につながることがあります。
もしかしたら、声掛けを躊躇う人もいらっしゃるかもしれませんが、ぜひ臆せずお願いできたら嬉しいです。
初対面の人に声をかけるのは緊張するかもですが、視覚障害者には悪い人はいないはずなので!(笑)
文字だけを読むと大変に思えるのかもしれません。ただ、誘導といっても、飲食店スタッフの負担になるものではありません。
よければ、次の記事も参考にしてみてください。
次のポイントの一つでも覚えていただけると嬉しいです。
【飲食店入り口での声掛けのポイント】
- 「こんにちは『○○店』のスタッフです」と来店している店の情報を伝える
- 「必要であれば座席まで誘導しましょうか」とサポートを確認する
- 「窓があってまぶしい席」、「暗い席」、「比較的明るい席」などがある場合には、お客さんの希望を確認する
- 「誘導はどのようにすればいいですか?」とニーズを確認する
- 「お待ちになられている方が○人いますので、順番が来たらお伝えしますね」と状況を説明する
- 「こちらに順番を待つ席がありますが、お座りになりますか?」と状況を説明する
事例2:メニュー内容を大きなカテゴリーから順に説明する
ときどき、「メニューの全部を読み上げなければならないのか」「点字や拡大文字のメニューがなければならないのか」という質問を受けるのですが、必ずしもそうではありません。
メニューの全てを読み上げていては、日が暮れてしまうこともあります。点字などのメニューを費用面で準備できない飲食店もあるかもしれません。
点字メニューやウェブサイトにアクセシブルなメニューがあればうれしいけど、それを全部の店に求めるのは違うかなと思う。
そこで、次のポイントを押さえていただければ幸いです。
【メニューを説明する際のポイント】
- メニューの説明が必要かどうかをお客さんに確認
- 説明する際は大きなカテゴリーから伝える(「前菜、飲み物、メイン…など」)
- 希望するカテゴリーの中カテゴリーを伝える(「前菜には…」)
- さらにその中で希望する料理を読み上げる(「ナポリタン…」)
- 限定の料理や特別な料理があることも情報として伝える
- 最後にそれぞれの値段も伝える
事例3:トイレの位置を案内する
飲食をする前後で必ずトイレには行きたいと誰もが感じることではないでしょうか。
また化粧を直したり、手を洗ったりしたいと思うことも自然なこと。
そこで、視覚障害者が来店した際には、「トイレの位置を伝えておきましょうか」と確認いただけると助かります。
トイレ位置を説明する際は、「トイレは入口から右に進んで、階段を上がった先にあります。手すりは左側にあります」といった具体的な指示を提供します。
流すボタンの位置で困る視覚障害者も多いですので、もしトイレの中の位置を伝える場面がありましたら、忘れずに説明いただけると助かります。
事例4:ビュッフェ形式のレストランでの配膳を行う
ビュッフェ形式のレストランでは、視覚障害があると単独で料理を取りに行くことが困難な場合が多いです。
また、家族と一緒に来店している方であっても、店のスタッフがサポートしていただけたらとても助かる場面が多くあります。
次のポイントを押さえていただければ嬉しいです。
【ビュッフェ形式での配膳のポイント】
- スタッフが料理を配膳することを提案する
- スタッフが配膳する際は、あらかじめ料理の希望を書き取り、まとめて配膳する
- 追加の料理を取りに行きたいときにスタッフにお願いする合図を決める(手を挙げる、30分後に声を掛ける)
- 一緒に料理を取りに行く場合も、大きなカテゴリーから料理を説明する
- 混雑している場合などにはお待たせすることも説明する
- お盆だけ席まで運んでもらいたいという要望もあるのでニーズを聞き取る
ビュッフェ形式のレストランやフードコートなどの飲食店は、自分で料理を取ったり、運んだりすることが苦手なので控えることが多いです。
それゆえに、上述したような配慮を少しでも検討いただけたら嬉しいですし、快適に過ごせるように思います。
事例5:配膳した料理お客さんから見た位置で説明する
最近、ロボットが配膳する飲食店も増えてきました。
ロボットが運んできても、自分の席に来たのか、どこに料理が載っているのか、ロボットから料理を取り出してテーブルまで自分で乗せられるのかという不安もあります。
これらの点についてサポートを検討いただくことはもちろん、スタッフが料理を配膳する際のポイントも記載します。
クロックポジションで料理を説明してくれるスタッフさんが増えた印象があるよね。
「クロックポジション」って言葉知ってるんだ。アナログ時計に見立てて、2時の位置に○○がありますっていう説明の仕方をいうんだけど、最近それを自然にしてくれるお店が増えた気がするんだよね。嬉しいよね。
【配膳のポイント】
- 配膳した料理が何かを説明する
- 伝票を置いた位置や、会計の場所なども伝える
- ロボットが料理を運ぶ際にはスタッフがテーブルまで乗せることを提案
- 具体的な料理の位置の説明が必要かを確認
- どこに何の料理が盛り付けられているのかを説明(クロックポジションで説明するのも有効)
- 説明する際には「お客様から向かって12時の方向に○○があります」といった具体的な方向と合わせて説明するか、お客さんが希望すれば手をとって具体的な料理や飲み物の配置を伝えるのも有効
事例6:無人レジやタブレットの代替策を提供する
無人レジやタブレットでの注文が増えてきました。
残念ながら、これらの端末はアクセシビリティに配慮されていないことが多く、視覚障害者にとっては使えないことが多いです。
そもそも、アクセシビリティって何なのかという説明は、こちらをご覧ください。
そこで、代替策としては次のようなことが考えられます。
【代替策のポイント】
- スタッフが代わりに支払いを受け付ける方法を提供
- 現金での支払いやスタッフが無人レジを操作する方法を提案
- タブレットでの注文をスタッフが代わりにやることを提案
事例7:飲食店の情報をアクセシブルなものにする
メニューが点字であると、とても感動します。
また、メニューがウェブサイトで簡単に読めるようになっていると、それだけで他の店よりも行きたい気持ちが高ぶります。
メニューを点字にすることは、費用の問題や管理の問題からなかなか難しい場合もあるかもしれません。
ただ、ウェブサイトに音声読み上げソフトで認識できるメニューを掲載することはとても簡単です。
メニューを画像としてではなく、テキストベースのメニューを掲載するだけで、読み上げには対応することができます。
ぜひ今からでも対応を検討してみてください。
アクセシブルなものにするためのポイントは次の二つ。
- メニューや店内案内を拡大文字・点字で提供
- ウェブサイトをアクセシブルなものに
まとめ:視覚障害当事者にお願いしたいこと
飲食店が視覚障害者に合理的配慮を提供する際のポイントについて説明しました。
2024年4月から合理的配慮が義務化されることに伴い、今障害者への配慮の在り方が注目されています。
障害がある当事者にニーズを確認して配慮を行うことが基本です。
残念ながら視覚障害当事者の中には、合理的配慮が義務化されたことに伴い、強い姿勢で飲食店に要望を出す方々も散見されます。
自分たちも障害のない人と同じようにサービスを受けられて当然なのはごもっともですが、それを露骨に外に出していては快適なものにならないケースもあります。
合理的配慮のポイントは、飲食店側と視覚障害当事者との建設的な対話の中で、個別に行うものです。
サービス提供側にもメリットを感じてもらえるよう、私も含め、誰もが丁寧な姿勢で臨みたいものです。
そして、改正後の法律をうまく使いこなしていければと感じています。
一般社団法人With Blindでは、合理的配慮をしてくれた飲食店や場所について、レビューという形で見える化しています。
詳しくは、こちらをご覧いただき、ぜひアプリをお気に入りに登録して活用いただけると嬉しいです。