見える側と見えない側の違いって何かある?
あなたは日常で当たり前に行っている慣れの行動に意識を向けてみたことはありますか?
技術発展などにより、目まぐるしくスピーディーに変化し続ける世の中。そんな世界で生きる視覚障害者の目線から何か日常に変化はあったのか。
日常の中で、不便だったこと、不便になったこと、自分で解決してきたこと。
今回はこの活動を始めるまで視覚障害者の方と接する機会もなく、まだ視覚障害者と接した経験が浅い中島がこれってどうなの?と聞いてみたいことを軸に、元水泳選手である河合 純一さんにインタビューをさせていただきました!
中島(高校生)この活動を始めるまでは、視覚障害者の方と接した経験はありませんでした。しかし、将来メディア関連の仕事をしてみたく、いろんな世界を知ってみようとWithBlindでライターを始めました。経験が浅いからこそ、未経験の方が本当に知りたい・興味があることを深ぼる記事を制作していきます!
*本記事は、特定の方に価値観や意見を押し付けるものではありません。多様な価値観の一つとしてお読みください。
河合 純一(カワイ ジュンイチ)PLY
公益財団法人日本パラスポーツ協会 常務理事・日本パラリンピック委員会委員
1975年静岡県生まれ。生まれつき左目の視力はなく、15歳で右目も失明。パラリンピックにはバルセロナ(1992)からロンドン(2012)まで6大会に出場、水泳競技で金5を含む全21個(日本人最多)のメダルを獲得。2016年にパラリンピック殿堂入り(日本人初)。早稲田大学大学院教育学研究科修了。静岡県公立中学校の社会科教師、静岡県総合教育センター指導主事、国立スポーツ科学センター先任研究員等を経て現職。東京2020パラリンピック競技大会・北京2022パラリンピック冬季競技大会日本代表選手団団長。上智大学、筑波大学非常勤講師。(一社)日本パラ水泳連盟会長。(交財)愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会組織委員会副会長。
初めましての方と話すために
中島)まず初めに、見えない側の方と初めてお話をする機会があった場合に意識して欲しいことはありますか?
河合さん)大人数で話すときは名前を名乗ってから話してくれると分かりやすいです。
中島)こちらの表情や反応が視覚的に伝わらないと思うので、声での相槌などはあると嬉しいですか?
河合さん)過度になるとわざとらしい感じになるから、自然にあると嬉しいです。でも、アイコンタクトはされても分からないけど、やっぱり目を見て話してくれるのは嬉しい。
中島)もし、駅などで白杖を持った方が困っているように見えた時、声をかけるとしたらどんな声の掛け方がいいですか?
河合さん)困ってそうに見えるなら、何かお手伝いできることありますか?って聞いてくれたら嬉しいんじゃないかな。
やっぱり、「視覚障害の人だから声かけてあげた方がいいかな」ではなくて”そこにいる人”が困ってそうって思ったら声をかけるっていう行動をするというのがいいんじゃないかと思うんです。
執筆者である中島は、このWithBlindで活動をし始めてから白杖を持っている方を最寄り駅で多く見かけるようになったと感じています。これは白杖を持っている人が増加しているのではなく、視覚障害を持つ方の存在を気に留めるようになったことでそう感じることができるようになったのでしょう。私の中で新たなアンテナが立ったのだなと分かりました。
私のように、新たな気づくアンテナを身につけるには、視覚障害の知識や障害を持つ方と話す経験を持つことが、まず初めの一歩なのではないかと感じています。
見える側と喋る時に意識していること
中島)先ほど相槌などの非言語について触れたのですが、河合さん自身が気をつけていらっしゃることは何かありますか?
河合さん)最近は人前で話す機会が多いから身なりはもちろん、話す前の態度で相手の姿勢も変わるから革靴で足音を立てることでこっちに注目してもらうことは意識しています。
河合さんは教師の経験や今でも上智大学で非常勤講師として働いていらっしゃる経験からか、視点が全体的に注目させるということに向いているように感じました。
私は、ジェスチャーや相槌という点での非言語的なアプローチは意識的に行った経験がありますが、足音を使ったアプローチは初めて知り、興味深いものでした。授業などで考えてみても、ふとした隣の教室の音や外からの音に敏感に反応する生徒は複数いると感じます。そう考えてみると、足音などの音での注意をひくアプローチは色々な場面で有効性が高そうです。
飲食店で困ること
中島)飲食店に行ったとき、メニューなどってどうしていらっしゃるんですか?
河合さん)最近よくあるタッチパネル式とかQRコードを読み込むタイプのメニューは困るんです。でも僕はそういう時、店員さんを呼んでおすすめはなんですか?って聞いています。
中島)河合さんのようにお話が好きな方はともかく、声をかけることが苦手な方とかは、タッチパネル式やQRコード式に変わっていくことでお店に入ることが少し難しくなってきている可能性がありそうですね。
河合さん)僕の場合は、あんまり一人でお店に入ることが無いからその経験は少ないけど、そういう経験をしてる人はいると思います。
このようにデジタル化が進むことで不自由になったことはいくつかあるようです。しかし、視覚障害の方が使用する音声パソコンや読み上げソフトの性能がデジタル化により高まっていき、「不便」が「簡単にわかる」に変化してきた事実も存在します。
飲食店での問題は対応の工夫に慎重な議論がこれから行われることが必要不可欠であるのではないかと感じました。
気をつけた方がいい話題や言葉
中島)視覚障害をお持ちの方の多くは後天性であるとお聞きしました。人それぞれ違うと思いますが、視覚を失いたての時は、些細なことにも敏感になりやすいのでは無いかと私は思うのですが、気をつけた方がいい話題や言葉ってあったりするのでしょうか?
河合さん)これに関しては、ほんとに人それぞれだね。例えば色の話題は、避けた方がいいのかなって考える人もいるみたいだけど、後天性の人だからこそ似合ってるって言ってもらえる色を着たいと思う所があるんじゃないかな。僕は、パーソナルカラー診断やってみたりとか、似合ってるって言われるのもあってオレンジとかピンクの服が好きでよく選んで着てみたりしています。
あとは、初めましての人と話すときに、いつ失明したのか知らない中で突然そういう話をするのは話したい話の本質からもズレちゃうから気をつけた方がいいかもしれません。聞いてもいいですか?って聞いてみたりとか。それで相手の人がまだそれは消化しきれてなくてって言うかもしれない。その人と話していくにつれ距離を詰めていきながらがいいかもしれません。
ここで河合さんは、障害受容の五段解説というものを教えてくださいました。これは、上田 敏氏が提起したもので、第1段階がショック期、第2段階が否認期、第3段階が混乱期、第4段階が努力期、第5段階が受容期となっています。
これを知識として持っておくと、障害を持つ方と接したり、支援したりという機会があった際に心理状況の理解につながります。河合さんはこれを子供に例えて説明してくださいました。
河合さん)子供には中高生の時思春期だったり反抗期があったりしますよね? 親や先生はそれを知っているからそれを踏まえた対応を心がけることができる。それと同じで障害も学術的な知識を持っておくことで接しやすくなるんじゃないかな。
私は、河合さんやWithBlindのよーすけさんとお話させていただく中で、視覚障害を持つ方と接する前に自分の中にあった障害に対する考えは大きく変化しました。やはりそれは、当事者の方と話す機会を設けたりこのような学びを得ることができたからだと考えています。私たち見える側が知る機会や接する機会を待つのではなく、自らで機会を作る方が増えてくると嬉しいなと私は感じました。
服の選び方
中島)先ほど服についてのお話がありましたが、どのように服を選んでるのですか?
河合さん)色とかを読み上げてくれるアプリがある。microsoftが開発してるSeeing AIが色とか文字を読み上げてくれるんだよね。家とかで選ぶ時は、触った時の生地感で記憶してるのが多いかな。だから、僕の中では同じ形・同じ素材で色違いの服は買わないっていうのをなんとなく決めてる。
中島)では、服を買いに行かれる時もそのアプリを使っていらっしゃるのですか?
河合さん)買いに行く時は、友達と行くとかお店の人と話して決めるかな、欲しいイメージを伝えてそれを探してもらう。あとはyoutubeで服の紹介とかも調べてそれと似たのを探してもらったりもするかな。
河合さんがおっしゃっていたSeeing AIというアプリはapple storeで実装されている無料アプリケーションです。私も実際に教えていただいてから使用してみましたが、商品のバーコードを読み取ることでその商品の名前を読み上げてくれたり、写真を撮るとそこに写っている物体が何であるかとその物体の色を読み上げてくれたりしました。興味がある方はApple StoreでSeeing AIと検索してみてください!
新たに感じる嬉しさ
中島)全盲になって、新たに楽しめるようになったことは何かありますか?
河合さん)よく視覚障害者の方って耳がいいんですか?って聞かれるけど、そんなことは全然なくて。進化的なものとはやっぱり違うんです。だからそういう所は無いんだけど、でも、ポジティブに考えれば、駅の乗り換えとかで声をかけてくれる人が増えたし、それは嬉しいことです。
中島)関わりがなかったところでも、関わりが自然と増えたということですね!
皆さんにメッセージ
中島)では、最後に河合さんが見える側の皆さんに伝えたいことはありますか?
河合さん)見える見えないで二元的に考えるとすごく大きな問題に見えるんだけど、例えば中島さんが僕の心の中が見えるかって言ったら見えないわけで、それって誰でも同じ。世の中は実は見えてるようで見えないことの方が多いと思うんだよね。だから、最近は見えてない僕の生活もそこまで皆さんと変わりなんじゃないかなって思っています。
人間は視覚からの情報が7割8割って言うけど、じゃあ視覚障害を持つ僕らが2割程度の情報で生きているかって言ったら、そんなことはない。皆さんに伝えることができる情報もあるし、僕が新しく知る情報もある。それもやっぱり皆さんと同じで、人はそれぞれ違うところがあるから、視覚障害もそのほんの少しの違いだと思うし、皆さんもそんな風に考えて欲しい。人間のDNAレベルで考えたら、1%も違わないからね。
最後に
皆さん、河合さんのお話いかがでしたでしょうか?
私は、これらの話を聞いて、何が困難かを見える側は理解するだけでなく、逆に何が満足な状態なのか、友人や知り合いの立場で完結できることなのか、を理解することができたのではないかと思います。お話を心に留めておくと、視覚障害自体重く捉えすぎず、今まで見えない側の方に関わってきたことがない人でも、視覚障害者の方と関わることがあった際にどうしようと構えすぎないということができるようになるのではないでしょうか。
今回の河合さんとお話する機会を得て、やはり視覚障害を持っているからと見える側が重く捉える必要はないと思いました。
もちろんお話にもあった通り、視覚障害になってから何年も経った河合さんも不便だと感じていることはありました。しかし洋服のお話でもあった通り、自分から行動したり、声をかけたりすることで自らで解決していらっしゃることが多いように感じます。
皆さんがもし視覚障害を持つ方と接する機会があった時は、相手の方が何をしたいのか、それをする上で何か困っていることはあるのかをその人と接する中で考え、手助けが必要だと判断した時に、手を差し伸べてあげて欲しいです。
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