AI技術の進化により、視覚障害者の生活をより快適にする革新的なソリューションが次々と誕生しています。
視覚障害者の社会と経済への参加を推進する一般社団法人With Blindでは、日本科学未来館の副館長であり、AIスーツケースの開発に携わる高木博信さんを講師に迎え、2025年1月24日にオンライン講演会を開催しました。
この講演では、視覚障害者の移動や情報アクセシビリティを支援する最新のAI技術、AIスーツケースの特徴や今後の展望、さらには実際の利用者の声を交えながら、技術の可能性について詳しく紹介されました。
本記事では、その講演会の内容をもとに、AI技術が視覚障害者の生活をどのように変えていくのかについて解説し、皆さんと一緒に考えていきます。
*本記事で引用している画像は、高木博信さんが2025年1月24日に講演で使用されたスライドです。
理解が難しいかなと思いこんでいたけれど、当日は、情報アクセシビリティの歴史や、AI技術の仕組み、そして私たちのようなマイノリティが発明のきっかけとなり、技術をけん引してきたことなどをわかりやすくお話しいただきました。ありがとうございました!
進化する視覚障害者支援技術 — 情報アクセスと移動の自由
視覚障害者にとって、情報の取得と移動の自由は、生活の質を大きく左右する重要な要素です。
過去から現在へ — 視覚障害者を取り巻く技術の進化
- 1980年代: 点字や録音カセットが視覚障害者の主な情報源でした。
- 1990年代: 音声合成技術の登場により、パソコンを使った情報収集が可能に。
- 2000年代以降: スマートフォンとインターネットの発展により、情報アクセスが飛躍的に向上。
しかし、情報アクセスが大きく向上した一方で、視覚障害者にとっての移動の困難さは依然として解決されていませんでした。
その課題に対応するため、「AIスーツケース」の開発が進められました。
移動の自由は、視覚障害者の社会参加や雇用機会の拡大にも直結します。
自由に移動できることで、仕事の選択肢が増えたり、より多くの人と交流を持てるようになるなど、社会的な孤立を防ぐ重要な役割を果たします。
例えば、海外で一人でワイナリーを訪問して、新しいワインを試飲して、好きなレストランで自分好みの時間を誰にも邪魔されずに過ごす。
このような健常者にとっては当たり前の世界は視覚障害者にとってはそうではない。
こんな世界を変える取り組みが講演会で紹介され、私たち参加者はわくわくした気持ちで高木さんの話に聞き入っていました。
講演会を通じて感じたのは、「AIスーツケースは単なる便利なツールではない」ということです。
視覚障害者の社会進出を支える革新的な技術としてだけでなく、私たちの社会参加を急激に助けに存在になりうるのではないかと感じました。
AIを使ったアプリやデバイスについて紹介した記事もよければご覧ください。
AIスーツケースの革新と開発者の思い
高木博信さんとは?
高木博信さんは、日本科学未来館の副館長であり、AIスーツケースの開発プロジェクトにおいて重要な役割を担っています。
◆日本科学未来館副館長の高木啓伸さんの略暦。
1990年に大学入学
大学院ではコンピューターを使っているユーザーの、視線の解析研究を行う。
1999年から、IBM 東京基礎研究所にてアクセシビリティリサーチを担当する。
2019年から、AIスーツケースコンソーシアムにて開発マネージャーを務める。 2021年に設立された日本科学未来館にて、副館長兼研究推進室長に就任。
視覚障害者向けのアクセシビリティ技術を牽引してきた浅川智恵子さんとも長年協力し、視覚障害者のための技術革新に貢献してきました。
浅川智恵子さんの功績
- 開発されたホームページリーダー(視覚障害者向け音声ブラウザ)は大変有名で、画面が見えない視覚障害者のインターネット利用を大きく進歩させてくれました。
- サピエ図書館(視覚障害者が点訳や音訳資料をオンラインで利用できるサービス)は今や視覚障害者にとって、読書や勉強をする上では欠かせないツールですが、この礎を築いてくださいました。
浅川さんの研究成果は、視覚障害者の情報アクセスの革命をもたらし、AIスーツケースの開発にも影響を与えています。
それだけではありません。IBMフェローとして、視覚障害者のキャリア形成の一つのロールモデルを示してくださっています。
浅川さんをもっと知りたいと思ったら、次の動画と書籍がおすすめです!
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「見えないから気が付くことがあるという観点はとても面白いです。視覚障害者のロールモデルの一人として、書籍を読んで、とても参考になりました。」
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AIスーツケースの最新モデルとその特徴
AIスーツケースは、視覚障害者が安心して移動できるように設計された画期的なデバイスです。最新モデルでは、次のように、より実用的な機能が追加され、移動支援がさらに強化されています。
- 段差の乗り越えアシスト: 後輪に大きな車輪を装着し、スムーズな移動を実現。
- 直感的なナビゲーション: ハンドル部分にディスク型の方向提示装置を搭載。
- 低い障害物の認識強化: 白杖では探知しづらい障害物をより正確に検知。
- 周囲の状況をAIが音声案内: 建物・歩行者の動きをリアルタイムで分析しアナウンス。
開発の背景と秘話
開発当初は、スーツケース型ではなく「ウェアラブル機器」も検討されていました。
しかし、視覚障害者が自然に使え、街中で目立ちすぎないデザインを模索する中で、現在のスーツケース型が採用されました。
その理由として、「視覚障害者が特別視されることなく、誰もが自然に使えるデザインを目指した」と講演会で高木さんが語ってくださいました。
体験者の声 — AI技術への期待
AIスーツケースを実際に試した方々からの感想も紹介してくれました。
- 「初めての場所に一人でたどり着けるという点に驚きました!まるで、もう一人のサポート役がいるようです。」
- 「名前を付けてあげたいです。愛情を感じます」
- 「普段ナビアプリを使っていますが、進行方向が分かりにくいことがありました。AIスーツケースなら、進むべき方向が直感的に分かるので安心です!」
- 「これまで移動に不安を感じていたが、AIスーツケースを使うことで、楽しく話しながら散歩感覚で外出できるようになる気がする。」
どこで体験できるのか?
• 東京・お台場 → 日本科学未来館で常設展示中。
• 2025年4月〜10月 → 大阪万博で体験可能。
今後は全国の公共施設や商業施設での導入も検討されています。
価格が高いため、このような施設でのレンタルが検討されているとのことです。
早く社会で実装されることが待ち望まれます。
未来に向けて — AI技術と視覚障害者の共生
AI技術の発展は、視覚障害者の生活に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。
その一方で、AIはもっともらしいことを話す技術であって、常に正しいことを教えてくれるものではないことも頭のどこかに置いておかなければなりません。
そして、もっと大切なことは、視覚障害当事者が、自らの足で歩き、自らの知恵で社会を変えることです。誰かの何かを待っているだけでは、私たちが望んでいる未来はすぐには訪れないかもしれません。
自分の足で歩き、日々勉強して、そしてこれからの子どもたちのためになることを毎日積み重ねていくことが重要だと再認識した講演会でもありました。
講演会でもAIスーツケースが社会で実装されることへの期待が多く意見として出されましたが、私たちはただ漫然と社会実装を待つのではなく、未来館に行ってAIスーツケースを体験したり、大阪万博で体験したりして、他の人の目にAIスーツケースを焼き付けること。
そして、社会実装に向けて、AIスーツケースに限らず、何かいいものがあったり、視覚障害者に役立つと思ったりするものがあれば積極的に発信していくこと。
更には、自分ができることで貢献をしていくことが求められているように感じました。
今回は高木博信さんのご厚意によりこの講演会を開催することができました。
開発者のお話しは、リアルで、私たちの心に突き刺さる何かがありました。
お話しいただきました高木博信さんには心より感謝を申し上げます。
With Blindの今後の取り組み
一般社団法人With Blindでは、今後も視覚障害者のための最新技術を紹介し、誰もが自由に社会に参加できるよう、様々な取り組みを行っていきます。
最新情報にご興味のある方は、ぜひ今後のイベントにもご参加ください!
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