障害者差別解消法が改正され、2024年4月1日、民間事業者による障害者への合理的配慮の提供が義務化されました。
ジム、スタジアム、球場、その他の体育施設などのスポーツ施設においても、視覚障害者を含むすべてのお客様が快適に利用できる接客と環境づくりが求められています。
視覚障害になじみのない人も、これまで視覚障害者に接して改善を繰り返してこられたスポーツ施設の方々にも、私たち視覚障害がある当事者の視点で、合理的配慮について無理なくできる事項を中心に読んでもらいたい記事として作成しました。
なお、当事者の皆さんにもぜひ読んでもらいたいないようになっています。
スポーツ施設って言っても、スポーツを”やる”のと、”観戦する”というのの二つがあると思うんだよね。今回は両方について考えていきたいと思います。無理なくできることが中心です!
目的
この記事では、視覚障害者への合理的配慮について、当事者視点から分かりやすく解説します。
具体的な例や、配慮を行う際のポイントなどを紹介することで、スポーツ施設における合理的配慮の実践を支援します。
いざというときには必ず役に立つ内容になっていますので、いつでも見直せるように、ブックマークなどしていただけたら嬉しいです。
また、一般社団法人With Blindは民間事業者の合理的配慮の対策を支援します。
検討段階で困ったことがありましたら、いつでもお問合せください。
【こんな方にオススメ】
- 具体的な合理的配慮の例を検討しているスポーツ施設
- 近くに障害者施設等があり利用が見込まれる施設
- 観光地などで誰もが利用しやすい空間を目指すスポーツ施設
- 過去に視覚障害者のお客様が訪問されたことをきっかけに、合理的配慮について検討しているスポーツ施設
- 誰もが利用できるスポーツ施設を目指して接客の質を向上させたいと感じている方
- 合理的配慮について具体的に知りたい視覚障害当事者やその周囲の家族など
視覚障害者がスポーツ施設で困ること
視覚障害者は、周囲の状況を視覚で把握することが難しいため、さまざまな困難を経験します。
特に、スポーツ施設においても次のような事項で困ることが多いです。
【視覚障害者がスポーツ施設で困ること】
- 体を動かしたいと思うけど「危ないんじゃないか」と一律に利用を断られてしまうことが多い
- スタッフに誘導をお願いしようとしてもどこにいるのかわからない
- トレーニングマシーンを使いたいけど、今利用中なのかが見えなくてわからない
- 施設の設備や空間把握が難しい
- 更衣室やシャワーがどこにあるのかわからない
- スポーツ観戦で音だけだと状況を把握することが難しい
- トイレがどこにあるのかわからない
この困難さの程度は、視覚障害者の中でも十人十色です。
よーすけも、単独でスポーツ施設によく行ってるよね。偶然、配慮してくれるところが見つかってよかったよね~。全国にもたくさんあるといいよね。こういう施設。
スポーツ観戦での視覚障害者向けの合理的配慮の例として、とても良い取り組み事例があったので、記事を紹介します!
アナウンサーと解説者が視覚障害者向けに実況中継をしてくれるというもの。
そして、次のような誤った理解で配慮が断られることも多くあるのが実情です。
これらの誤った理解は、不当な差別的取り扱いとして違法となり、罰則に該当する場合もあるようです。
思い込みや偏見を捨て、スポーツ施設と視覚障害者の双方が建設的な対話の中から解決策を探っていくことが求められています。
【違法となる可能性がある誤った理解】
- 前例がないのでサポートできない
- 忙しいので利用を断った
- よくわからないので断っている
- 障害があると危ないので一律に断っている
- 盲導犬や介助犬との利用は断っている
前提知識1:視覚障害の種類と影響
この記事を理解するうえで、前提となる知識を紹介します。
視覚障害=見えないと誤解をされている方に出会います。
また、スポーツ施設の利用において、みえない みえにくい = 危険というイメージだけが先行しているようにも感じています。
きちんと危険性を伝え、お互いに注意することで、安全な利用は可能ですので、ぜひ柔軟に検討いただければ嬉しいです。
視覚障害には、
- 視野が狭い人
- 後天的に視力を失った人
- まぶしいのが苦手な人
など、さまざまな種類があります。
また、視力障害の程度も、
- まったく見えない全盲
- 日常生活に支障のない程度の弱視
まで様々です。
従って、視覚障害の程度によって、必要となる配慮のレベルも様々です。
視覚障害も多様であることはぜひ覚えておいてほしいポイントです。
前提知識2:視覚障害者を取り巻く環境
近年、情報通信技術の発展により、視覚障害者を取り巻く環境は大きく改善されています。
拡大ソフト、音声読み上げソフト、点字ディスプレイなどの assistive technology の普及により、視覚障害者も多くの情報にアクセスできるようになりました。
特に、スポーツ施設のウェブサイトがアクセシビリティに配慮されたものであれば、施設の情報だけでなく、詳細な内容も解読することができるのが大きなポイントです。
障害がある人の利用を想定した記述を行うスポーツ施設も増えてきています!
そして、アクセシビリティに配慮されたウェブサイトであれば、視覚障害者も単独でイベント予約をすることができます。
こうした配慮により、来店者数の増加が見込めます。
見えない・見えにくい人は、ウェブサイトの文字を拡大したり、コントラストを変えたり、音声読み上げソフトを使ったりすることで、情報を入手しています。
しかし、スポーツ施設のような公共の場では、視覚障害者が依然として多くの困難に直面しているのも事実です。
初めて訪れる施設では、バリア(障壁)が多くて利用しづらいと感じる場合が多いです。
ただ、東京パラリンピックの開催を契機に、次のような変化も感じています。
- 障害者スポーツ(パラスポーツ)への理解・関心の強さ
- 障害がある人も日常的に体を動かすことに対する理解の向上
- スポーツ観戦をすることに対する配慮
前提知識3:障害者差別解消法改正のポイント
視覚障害があってもスポーツを楽しむためのは、障害者に対する合理的配慮です。
従来、民間事業者における障害者への合理的配慮は努力義務でしたが、2024年4月の改正により義務化されました。
障害者差別解消法は、国連の「障害者の権利に関する条約」の整備の一環でもあり、日本だけでなく国際的なレベルでも重要とされています。
障害者差別解消法の改正ポイント | 2014年3月まで | 2014年4月以降 | ||
行政 | 民間 | 行政 | 民間 | |
①不当な差別的取扱い | 禁止 | 禁止 | 禁止 | 禁止 |
②合理的配慮の提供 | 義務 | 努力義務 | 義務 | 義務 |
前提知識4:合理的配慮の対象となる障害者とは
障害者差別解消法で重要なのが障害者への合理的配慮です。
障害者とは、目に見える障害や、障害者手帳の所持の有無で決まるものではありません。
日常生活で不自由を継続的に感じている人全般が対象です。
「障害者」とは、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
障害者基本法2条1号
前提知識5:合理的配慮とは
障害者が社会のあらゆる場面で平等に参加できるよう、必要に応じて行う特別な措置のことを指します。
いわゆる「特別扱い」ではなく、誰もが平等にできるようにするための措置ですので、この点は誤認・誤解のないように理解する必要があります。
こちらで詳しく紹介しています!
スポーツ施設での4つの合理的配慮の例
視覚障害者への合理的配慮として次のようなものが考えられますが、これは一例です。
- 視覚障害者を見かけた際は声掛けをする
- 施設の説明をする
- 安全面への配慮を提供する
- ウェブサイトをアクセシブルなものにする
事例1:入口で視覚障害者を見かけた際には声を掛ける
スポーツ施設は広くて、目的地に視覚障害者が単独でたどり着くことが困難な場合が多くあります。
特に初めての所であるとなおさらです。
外の看板や、地図を見ることができないためです。
また、サポートをお願いしようと思っても、入口から店員さんを自力で探せないことも多いです。
なので、施設のスタッフや警備員に声をかけていただくことは大きな安心感につながることがあります。
もしかしたら、声掛けを躊躇う人もいらっしゃるかもしれませんが、ぜひ臆せずお願いできたら嬉しいです。
誘導といっても、スポーツ施設スタッフの負担になるものではありません。
よければ、次の記事も参考にしてみてください。
【声掛けのポイント】
- 「こんにちは『○○』のスタッフです」と訪問している施設の情報を伝える
- 「誘導は必要ですか?」「どのようにすればいいですか?」と確認する
- 「この通路には、○○と▲▲の障害物がありますので、歩く際は左側の壁に沿って歩くと安全です」などと、想定される危険な物に対する注意事項を伝える
- 「お待ちになられている方が○人いますので、順番が来たらお伝えしますね」と状況を説明する
- 「こちらに順番を待つ席がありますが、お座りになりますか?」と状況を説明する
事例2:施設を説明する
大きな施設であればあるほど、自力で目的地を探せないことが多いです。
特に、全盲だと様子が見えないため、視覚以外の感覚だけではどこに何があるのかがわからない場合も多々あります。
ただ、一度施設の説明をしていただくことで、次からは単独で利用することができる視覚障害者や、一部分だけのサポートを依頼するだけであとは単独で行動することができる視覚障害者も多くいます。
こんなサポートがあったら、とても助かります。
【施設を説明する際のポイント】
- 「どんな設備お利用しますか?」と希望を確認する
- 「このスポーツ施設には、大きく○○と▲▲の器具がありますが、どちらからご覧になりますか?」と大きなカテゴリーから順番に様子を伝える
- 「よければ触って確認しますか?」と器具を手渡しして確認してもらう
事例3:安全面への配慮を提供する
スポーツ施設においては、走ったり、体を動かしたりしている人が多くいます。
他の施設よりも、安全に対する不安は、視覚障害者側も、スポーツ施設側もあると思います。安全に対する配慮はとても大切ですが、同時にスポーツを楽しみたいという視覚障害者にも意識を少し向けていただけると助かります。
残念ながら、ジムの機材や、スポーツ施設の設備の多くは視覚障害者向けに配慮されていないことが大半です。
そこで、次のようなことが考えられます。
【安全面に配慮するポイント】
- 「この器具は頭上にアームがあります」など、想定される危険性について事前に伝えておく
- 「手を挙げて読んでいただければ、駆け付けますね」など、サポートや誘導が必要な際の合図を決めておく
- 他の利用者にも視覚障害者が一緒に利用していることを周知して理解を求めておく
事例4:ウェブサイトをアクセシビリティに配慮したものにする
スポーツ施設に点字ブロックや点字があると、とても感動します。
ただ、点字が読めるのは、視覚障害がある人でも少数。
また、障害者の利用を想定した記載や説明がウェブサイトで簡単に読めるようになっていると、それだけで他の施設よりも行きたい気持ちが高ぶります。
視覚障害があっても単独で予約フォームなどが操作できる仕組みになっていると、さらに行きたい気持ちが増します。
点字ブロックなどをスポーツ施設に設置するのは管理の問題からなかなか難しい場合もあるかもしれません。
ウェブサイトをアクセシブルなものにするのはとても簡単です。
- 画像に代替テキストをつけたり
- テキストベースの施設案内を掲載したり
- 障害者の利用を想定した施設案内を掲載したり
- 各種操作をキーボードだけで操作できるようにしたり
することだけでアクセシビリティは高まります。
ぜひ今からでも対応を検討してみてください。
まとめ:視覚障害当事者にお願いしたいこと
スポーツ施設が視覚障害者に合理的配慮を提供する際のポイントについて説明しました。
2024年4月から合理的配慮が義務化されることに伴い、今障害者への配慮の在り方が注目されています。
障害がある当事者にニーズを確認して配慮を行うことが基本です。
スポーツ施設においては、上記で紹介した内容を踏まえ、自分事として利用方法について、検討をいただけるととてもありがたいです。
視覚障害者の中には、合理的配慮が義務化されたことに伴い、強い姿勢でスポーツ施設に要望を出す方々も散見されます。
自分たちも障害のない人と同じようにサービスを受けられて当然なのはごもっともですが、それを露骨に外に出していては快適なものにならないケースもあります。
合理的配慮のポイントは、スポーツ施設側と視覚障害当事者との建設的な対話の中で、個別に行うものです。
サービス提供側にもメリットを感じてもらえるよう、私も含め、誰もが丁寧な姿勢で臨みたいものです。
そして、改正後の法律をうまく使いこなしていければと感じています。
一般社団法人With Blindでは、合理的配慮をしてくれたスポーツ施設や場所について、レビューという形で見える化しています。
詳しくは、こちらをご覧いただき、ぜひアプリをお気に入りに登録して活用いただけると嬉しいです。